海外カンファレンス報告

Leading Edge Consortium 2016

2016/10/21~22日、米国産業組織心理学会(SIOP)がジョージア州アトランタにて開催したLEADING EDGE CONSORTIUMというカンファレンスに参加いたしました。今年のテーマは "TALENT ANALYTICS:DATA SCIENCE to Drive People Decisions and Business Impact"です。カンファレンスの参加者数は、アカデミア、企業、コンサルタントなど、過去最多の237名とのことで、このトピックへの高い関心が表れています。

・1日目 … ビッグデータを活用した組織のエンゲージメント向上の推進(IBM)
・1日目 … アナリティクスを活用したタレントのより良い理解と、経験値を高める取り組み(GE)
・2日目 … HRがアナリティクスを導入するにあたっての課題やリスク

さて、カンファレンス1日目で印象に残ったIBMとGEの取り組み事例を簡単にご紹介いたします。

ビッグデータを活用した組織のエンゲージメント向上の推進

IBMでは、これまで定期的に行っていた従業員意識調査だけではエンゲージメントの実態が見えてこないという問題意識から、社内のソーシャルメディアでやりとりされているコメントをリアルタイムで解析しているようです。

その解析を通じて、エンゲージされている人とそうでない人の状況やパターンが明らかになり、今までは気づかなったエンゲージメント向上につながるインサイトが導き出されました。

そうしたインサイトをもとにして、HRがラインマネージャーとともにエンゲージメント向上に向けた検討の話し合いを定期的に行い、各職場単位での質の高い改善アクションが取れるようになり、エンゲージメントのスコアも高まったようです

タレントアナリティクスを活用したタレントのより良い理解と、経験値を高める取り組み

GEでは、社内のHRIS(人材情報システム)のデータソースに依存したタレントデベロップメントに対する限界を感じたことから、日常的なデジタルワールドから抽出されたデータも積極的に活用し始めたようです。具体的には、FacebookやLinkedInなどの外部ソースを活用することで、これまで見えなかった従業員のインサイトを得られるようになったとのことです。

また、たとえば、Amazonなどのレコメンダーのアルゴリズムを活用した、従業員間のコネクションづくりの促進や個人に合った学習モジュールのお知らせなどが、リアルタイムにできるようになったとのことです。

開催地は米国ジョージア州アトランタ。好天に恵まれた。

カンファレンス2日目では、HRが、ビッグデータを活用したアナリティクスを導入するにあたっての課題やリスクについてのセッションが多くありましたので、その概要をご紹介します。

HRがアナリティクスを導入するにあたっての課題やリスク

タレントアナリティクス導入を阻む「ビッグデータ神話」

シラキュース大学のソルツ教授の調査によれば、大企業の78%はタレントアナリティクスの活用を緊急かつ重要と考えているようですが、そのうちの45%の企業は活用の準備がまったく整っていないと回答したとのことです。

HRのリサーチを専門としたHumRRO社によれば、こうした実態の背景にあるのは、「ビッグデータに対する神話」があるとのことです。

具体的には、たとえば、産業組織心理学のフィールドでは、スモールサンプルでのリサーチが一般的であり、ビッグデータの必要性に懐疑的であるという見方や、ビッグデータは予測モデルというラベリングがされがちで、起きた事象の分析には適していないとされる見方があるようです。

また経営サイドからは、ビッグデータはアルゴリズムがブラックボックスだと思われ、活用しにくいという見方もあるようです。そうした誤解を解くために、これまでのトラディショナルなアプローチとビッグデータとの関連性や親和性に対する認識を組織的に高める努力が必要なようです。

カンファレンス参加者との交流を深めたランチタイム

活用の鍵となるのは、組織の倫理的な側面へのアプローチ

また、HRがアナリティクスを社内的に活用していくにあたっては、HRIS(人事情報システム)以外のデータソースであるソーシャルメディアなどの情報にアクセスするため、従業員のプライバシーや組織として大切にしているバリューへの抵触リスクなど、倫理的側面をどう押さえるかが鍵のようです。

アナリティクスを有効に活用していくためには、乗り越えなければいけないハードルがまだいくつもあるようですが、導入の本来の意図である、組織のマネジメントにおける意思決定のバイアスを是正し、従業員のエンゲージメントの向上やより良いビジネスインパクトにつなげていくためにも、今後のさらなる研究と実践に期待したいと思います。

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