海外カンファレンス報告

Performance Management Conference 2020 参加報告 〜コロナ渦で加速したアジャイルなパフォーマンスマネジメントの取り組みと共感的なコミュニケーション〜

米国のシンクタンクConference Board が毎年開催している Performance Management Conference が、コロナ禍の2020年11月7日と12月9日の2日間、オンラインのバーチャルセッションという形式で開催されました。

本カンファレンスでは、彼らのリサーチによるパフォーマンス・マネジメントの最新トレンドについての紹介と、それらに関連するビジネスの現場での取り組みについての研究や事例が、毎年紹介されます。ヒューマンバリューでは2017年から毎年参加しており、今回で4回目の参加になりました。今回のカンファレンスの参加者は425人で、例年の4〜5倍の参加者数でした。新型コロナによって、激しいビジネス環境の変化に見舞われた2020年。米国においても、人々の働き方に変化が迫まれ、パフォーマンス・マネジメントのあり方に大きな注目が集まっていることが、参加者の増加からも伺えました。

参加の背景

2020年は、世界が新型コロナウイルスの危機に直面した1年でした。世界中で人々の働き方が大きく変わり、マネジメントや人と組織の関係もまた変化が迫られているように思われます。そうした中で、期初に年間の目標を立て、期末にその達成度合いを評価するという、従来からの伝統的な評価制度の問題が表面化したように思います。そこで、そうした従来のマネジメントや評価のあり方を見直そうという新しいパフォーマンス・マネジメントの現在位置や、今後それらがどのように進化していくのかについて、米国での最新動向を調査することを目的として、ヒューマンバリューから菊地と三宅の2名が参加しました。

米国でのパフォーマンス・マネジメントのトレンド

今回のカンファレンスは、以下のような背景と課題意識を前提として構成されていました。

・ 新型コロナウイルスの影響を受け、組織がリモートワークを採用したり、マネジャーに新しい役割が求められたり、仕事の進め方を根本的に変える必要性に迫られたことで、問題がさらに露呈したこと。
・ 家庭などの私生活と仕事の境界が曖昧になるなど、リモートワークが普及した結果、企業は管理職の能力と従業員のエンゲージメントの強化という課題に直面していること。

カンファレンス初日の冒頭では、オーガナイザーを務めた、Conference Boardのハリス博士から、「皆さんが直面している、この前例のないカオスな状況とジレンマを乗り越えるために、今世界でどのような取り組みが行われているかについてのインサイトを提供したいと思っています」という主催者としての想いが共有されました。また、参加者が例年の4〜5倍(425人)であったことが紹介され、今回のカンファレンスに集まる注目度や期待の高さが感じられるオープニングでした。

その中で、ハリス博士から紹介のあったConference Boardによる2020年3月20日のポッドキャスト「COVID-19 Reset and Recovery: Adapting Feedback and Performance Systems during and after a Crisis」では、新型コロナによって社会の不確実性が高まったため、米国で広く採用されている報酬と直接紐付けられた目標管理が機能しなくなったと説明されていました。具体的には、変化に合わせて目標を柔軟に変えることができない組織の硬直性がビジネスに悪い影響を与えるだけでなく、達成できる見込みのない目標設定は、多くの人々のモチベーションを下げてしまい、働く気力を失わせてしまっていたそうです。Conference Boardの調査では、目標設定をすることが悪いということでなく、こうした状況では、成果よりも行動や学習の基準に焦点を当てた目標を設定することで、従業員の士気やモチベーションにプラスの効果をもたらし、リモートワークにおいても人々の信頼関係の構築に貢献する可能性があると述べていました。


そうした新型コロナの影響により、米国ではパフォーマンス・マネジメントが見直される機運が高まりを見せているようです。具体的には、以下の4つの変化のトレンドについて挙げられていました。

・ 過去のことではなく未来に焦点を当てた、よりアジャイルなプロセスを採用する
・ 個人の評価ではなく、チームパフォーマンス/チームベースの評価に焦点を当てる
・ マネジャーの能力開発をサポートする(目的によってメンバーを鼓舞し、共感をもってリードし、より透明性の高いコミュニケーションができる能力の開発)
・ 目的によって駆動する組織(a purpose driven organization)のために、パフォーマンス管理プロセスをカスタマイズする

これらトレンドを踏まえて、以下では、カンファレンスで紹介があった、リサーチからのインサイトや企業の事例を通して、米国での取り組みから見えてきたものをレポートしたいと思います。

組織のアジリティを高めるパフォーマンス・マネジメントの取り組み

全体を通して興味深かったのは、アジャイルなパフォーマンス・マネジメントに関するPDRI社からの共有です。PDRI社は、人と組織に関わるリサーチをベースに、40年以上にわたってビジネスリーダーにインサイトを提供している企業です。

PDRI社からは、最初にわかりやすい情報として、アジリティの高い組織はパフォーマンスが高く、そうではない組織と比べると、投資資本利益率は約150%、株主資本利益率は500%高いという紹介がありました。さらに、PDRI社では300社以上のグローバル企業を対象とした調査を行い、組織のアジリティを高めるための重要な要因について明らかにしたそうです。その要因の1つがパフォーマンス・マネジメントに直結していたことから、組織はパフォーマンス・マネジメントを改革することで、成果を高めるだけでなく、組織のアジリティも高めることができると結論づけていました。

また、アジリティには、「プロアクティブ(変化を先読みして俊敏に行動する)なアジリティ」と「リアクティブ(起こった変化に対して俊敏に行動する)なアジリティ」の2つの側面があるとし、不安定で破壊的な状況に直面しているときには、何の効果も生まないような取り組みを躊躇なく切り替える、「リアクティブなアジリティ」の重要性が高まるという紹介がありました。PDRI社の調査によると、高いアジリティとパフォーマンスを実現する鍵となるのが、リアクティブなアジリティを実現する「容赦なくコース(目標)を修正する(relentless course correction)」組織の文化だそうです。

”『容赦なくコース(目標)を修正する』組織とは、目標設定やその見直しが、個人だけに焦点を当てた形式的なイベントや、カレンダーによって定期的に行われるのではなく、チームに権限を与え、チーム内でパフォーマンスの課題を恐れずに提起し、解決していくような組織のことを意味します”

さらに、そうした組織の文化をつくるということは、リーダーがメンバーを管理するという従来のマネジメントにある前提を手放し、チームで対処するマネジメントにシフトすることを意味します。最終的な目標は、課題の特定を促す風土をチームの中につくること。そして、心理的に質問しにくいことも建設的に投げかけ、チームのパフォーマンスについて良くも悪くもオープンに議論する文化をつくり出すことであるという説明がありました。

こうした組織の文化をつくるために、PDRI社のマネージング・コンサルタントであるエリザベス氏は、3つのポイントを挙げています。

最初に挙げられていたのが、「自己防衛的なマインドセット」の対処についてでした。
自己防衛的なマインドセットとは、次のようなものです。

・ うまくいかないとき、責任を負うべき人(犯人)を明らかにしようとする
・ チームがパフォーマンスの問題に直面したときに、犯人探しによって組織が悪い状態へとエスカレートしてしまう

自己防衛的なマインドセットを乗り越えるためには、チームが問題の理解と解決に集中できる状態を生み出すことが必要です。メンバー同士が、互いに自らの責任を切り離そうとする「私たち 対 彼ら」という思考に陥らないで、チームの皆が責任を感じて問題に向き合おうと思える状態を実現することです。そのために、リーダーや組織は、誰もが安心してパフォーマンスに関する問題を話し合える環境をつくり、それを強化する必要があるということでした。

2つ目のポイントは、「パフォーマンスをリアルタイムで追跡できるツールを、チームに提供すること」でした。

それにより、全員のパフォーマンスが向上したそうです。チームにとって最高の指標は、チームがセルフマネジメントできるものです。指標からのフィードバックは、メンバーにとってより客観的に感じられるものであり、また、必要に応じて重要な軌道修正を誰でも行うことができるようになります。

そして、最後のポイントは、「本当の問題を解決すること」です。

指標をリアルタイムに把握するだけでは、問題を十分に明らかにすることはできないといえます。表面的な問題に対処するだけでは、多くの場合、本質的な問題を見逃すことになってしまうため、チームで本当の問題を明らかにすることが大事であると述べられていました。こうしたときに推奨されていたのが、シックス・シグマの「なぜ」を5回繰り返し、真因にたどり着く手法を利用するということでした。

ここで説明のあった「容赦なくコース(目標)を修正する」組織文化を実現するためのポイントは、チームでマネジメントに取り組むということでした。実際に、顧客や組織のステークホルダーへの価値(インパクト)は、チームから生まれるというPDRI社の調査結果は、現在多く採用されている個人に焦点を当てたパフォーマンス・マネジメントのブラインドサイドを指摘していたという点で、インサイトのあるセッションのように感じられました。しかし一方で、チームベースでのマネジメントにおいて、個人の成果をどう捉え、それをどう評価するのかについては、議論が残るところもあり、これからさらなる進化を探求していきたいところです。

チームで目標を共有する

チームでのマネジメントに関連して、チームで目標設定に取り組む2社(ミシュラン社とエドワード・ジョーンズ社)のパネルディスカッションを共有したいと思います。

ミシュラン社は言わずもがなですが、世界的なタイヤのメーカーでフランスを代表するグローバル企業です。またエドワード・ジョーンズ社は、日本での知名度はそれほど高くないかもしれませんが、北米に1万9000人のファイナンシャル・アドバイザーの支店をもち、米国とカナダのクライアントに投資サービスを提供しており、こちらも大きな企業です。

エドワード・ジョーンズ社には、北米に散らばるそれぞれの支店に、クライアントと対面で投資サービスを提供しているファイナンシャル・アドバイザーと、それをサポートする役割のスタッフがいます。しかし、この2つの職種は分けられていて、これまで制度上は連動していなかったそうです。それを、支店ごとに顧客に焦点を当てた、共通の目標設定に変更したそうです。それまで職種・機能で分けられていた目標設定をやめ、マトリックス型の組織が、顧客への価値提供のために共通の目標をもてるようにし、より顧客の成果に基づいた柔軟性のある新しい仕組みへと変えたそうです。

「これまでの伝統的な業績管理は、活動に焦点を当てたもので、社員の正しい行動、つまり文化的な部分にインセンティブを与えてきました。ですが、現在私たちが向き合っているのは、クライアントの結果です。私たちはクライアントと一緒に目標を設定し、それを達成しようとします」 ブライアン・アシュワース氏 (情報技術部人事部長、エドワード・ジョーンズ社)

一方で、ミシュラン社で取り組んでいたのは、共有目標(Shared goals)を設定するというものです。共有目標は、最低でも他の一人と目標を共有しなければならないそうです。通常は、自分のチームで、あるいはより広いビジネスユニットで、目標を設定するそうです。現在ミシュラン社では、フルタイムの社員すべてが、この共有目標を設定しているとのことです。

ミシュラン社がこの新しい制度に移行した背景に、環境問題への取り組みに対する世界的過熱があります。また、顧客の多様化による製品ニーズの多様化から、求められるイノベーションのペースの速さが加速し、より大きなコラボレーションを実現する必要性に直面しているそうです。

パフォーマンス・マネジメントの取り組みにおいては、共有目標(Shared goals)の設定に併せて、ランク付け(相対評価)やレイティング(評価段階づけ)を完全に撤廃しました。一方で、社員が職務のミッションを達成しているかどうかを確認するためにフィードバックを求め、上司や一緒に仕事をしている他の人たちからフィードバックを受けるようにしているそうです。社員が、周囲からのフィードバックをもらうことで、自分のスキルを向上させるきっかけにできるような制度が運用されているとのことでした。

また、詳細までは明らかにされませんでしたが、共有目標によって報酬を決めているそうです。ミシュラングループ全体で設定している3つの大きな目標があり、それに基づいて共有された目標の達成に報いるための基準を定めることができるそうです。

エドワード・ジョーンズ社でもランク付けは廃止したものの、ミシュラン社と異なる点は、5段階での評価を意図的に残していたことです。これは、エドワード・ジョーンズ社が非上場会社のため、株主に対して説明する社会的な責任がない代わりに、自ら説明責任を果たす規律を意識するための意図があるそうです。

「私たちの仲間から日常的に聞いていることは、自分は(周囲から)どのように見られているのか知りたいということです。その理由の1つは、私たちが高い説明責任をもつプライベート企業であるからです。株主の評価は私たちにとって重要ではないので、(自ら規律を保つという意味で)私たちが評価から逃れることはないと思います」 ブライアン・アシュワース氏 (情報技術部人事部長、エドワード・ジョーンズ社)

コロナ禍で高まる会話の重要性と共感的なコミュニケーション

次にご紹介するのは、マイクロソフト社、シスコシステムズ社、プルデンシャル・ファイナンシャル社の3社による対談および、UPS社とThe E.W. scripps Company社の対談の内容です。オープニングのセッションで、オーガナイザーであるハリス氏からも言及された新型コロナの影響や、米国企業がそれにどのように対応したのかについて各社の取り組みや考えが対談の内容から垣間見られ、どちらも気づきの多いセッションでした。

マイクロソフト社、シスコシステムズ社、プルデンシャルファイナンシャル社の対談

皆が生命の危険を感じ、社会や経済も揺らぐパンデミックの環境に置かれた中、3社から共通して発せられた印象的なワードは、「会話(カンバセーション)」と「共感(エンパシー)」でした。

マイクロソフト社では、こうした状況の中でも、社員が成果に向き合えるようにするにはどうしたらよいかと考え、パフォーマンス・マネジメントの観点で、会話と共感をもって社員へアプローチする取り組みを行ったそうです。CEOのナデラ氏の人間的なリーダーシップにより、まず明確に、「自分自身や家族を大切にする」というメッセージが社員に発信されました。そして、社員一人ひとりが考えていること、感じていること、置かれている状況は、それぞれ違うというマインドセットをもち、社員の立場で考える共感的なアプローチを取ったそうです。また、必要に応じて、それまでの目標のリセットも行ったということです。

プルデンシャル・ファイナンシャル社では、パンデミックによる混乱の最中、2020年に、リーダーシップモデルとパフォーマンス・マネジメントのプロセスを新しいものにしました。働く人々からは、「業績管理は窓から投げ出すべきだ」「目標達成のための説明責任を負うのは厳しすぎる」というような意見もかなりあったそうです。しかし、そうした混乱の中でも、社員からより多くの共感を得られるよう、それぞれが今直面している課題は何かを尋ねる会話から始めたそうです。相手に何かを強いるようなフィードバックや会話をするのではなく、相手に共感し、相手がどのように考えているのかを理解すること、そして、どのようにサポートできるのかを見極め、手助けをするために、会話の最初に相手の状態を把握し、必要ならば目標をリセットすることを奨励したそうです。

シスコシステムズ社では、この危機から、従業員と共感的な関係をつくるアプローチにシフトしたそうです。世界が混乱した状況の中で、膨大な人数の社員をどのようにサポートすればよいのかという視点から考え、パフォーマンスの定義を変えました。それを可能にするリーダーの役割は、成果物や会社のためへの貢献だけでなく、チームの幸福に目を配り、対話により社員をサポートすることだったようです。

「自分の強みを生かす機会を与えてくれる人たちと一緒に仕事ができること。隣には自分を支えてくれる人がいること。その人たちを信頼できること。責任が一人の肩にかかっているのではなく、チームで課題を克服でき、大きな影響力がチームにあること。こうしたことがわかりました。それは、私たちが非公式に集合的に行っていることであり、相互に行われるサポートと、お互いにもっている責任の両方を意味しています。この危機は、私たちのコミュニティの経験を大きく民主化すると思います」 ジャネル・ゴードン氏(パフォーマンス担当、シスコシステムズ社)

このような3社の対談から見えてきたのは、今回の新型コロナによって、これまでパフォーマンス・マネジメントで唱えられてきた会話の重要性が、より鮮明に浮かび上がってきたことです。今回のコロナ禍において、社員が自分自身や家族の健康とともに、会社の取り組みに向き合える状態をいかにつくるかということが、私たちにとって共通のテーマになったのではないでしょうか。そうした中、「共感」というアプローチは、強調してもし過ぎることのないこととして扱われているように感じられました。

こうしたコロナ禍での取り組みに加えて、各社からそれぞれ個別の興味深い内容の共有がありました。

マイクロソフト社からは、会話の質を高める工夫や模索の共有がありました。そこからは、マイクロソフト社でおこなわれている会話についての取り組みの本気度や、目指している会話の質の高さがうかがえ、パフォーマンス・マネジメントの取り組みの奥深さを感じました。

「日々の会話に費やす時間のバランスを変えたり、話す順序を変えることは、とてもシンプルなことですが、実際には大きなインパクトを与えることができます。社員は自分のやってきた成果を話したがるのは間違いありませんが、しかし、探求する方法についてはまだ多く検討の余地があります。『もっと何をしたいのか?』『何があなたをやる気にさせるのか?』『どうやって自分の強みを発揮するのか?』というようなことです。だから我々は、どのような順序で会話を進めるのか、どのような頻度で、どのような種類の質問をすればよいのかといったことを模索しています」 リズ・フリードマン氏(グローバルパフォーマンス&デベロップメント、シニアディレクター、マイクロソフト社)

シスコシステムズ社からは、成果と成長の視点で、会話の取り組みについての共有がありました。

「パフォーマンスとデベロップメント。この2つを統合するために、いくつかのステップを踏んできました。私たちのパフォーマンスプロセスは、「この人の強みは何か」「この人のキャリアの願望は何か」、そして「この人はどこに行きたいのか」という将来のパフォーマンスを重視しています。今の自分の役割をどのように示しているのか。その大きな戦略的目標に基づいて、彼らが今どのような役割を担っていて、成長のためにどのような投資をしたいのか。そうした取り組みすべてが私たちのライフサイクルなのです。私たちは日々の生活の中でこれらを結びつけて、 成長と成果を共に実現しようとしています」 ジャネル・ゴードン氏(パフォーマンス担当、シスコシステムズ社)

プルデンシャル・ファイナンシャル社からは、2020年に導入した新しいリーダーシップモデルの共有がありました。それは、シスコシスコシステムズ社と同じく、成果と成長を共に実現しようという強い姿勢が感じられるものでした。

「私たちは『ピープルリーダーシップ』を作成しました。ピープルリーダーシップとは、自分と他人の長所を引き出すことです。これと言ってしなければならない明確な要件はありません。リーダーシップに関してトップの評価を得ている人は、時間をかけてチームの人材を育成し、その能力を最大限に発揮できるように支援しているというエビデンスをもっている人です。ですから、今は導入の最初のステップとして、リーダーがメンバーとそうした会話を行っているかを確認することに重点を置いています」 ジョン・ドノヴァン氏(タレントマネジメントセンターオブエキスパート、バイス・プレジデント、プルデンシャル・ファイナンシャル社)

3社の共有から、成果と成長の視点をつなぐための日常の取り組みの重要さがうかがえるように思います。成果と成長の視点は、時として、パフォーマンス・マネジメントの議論の中で対立軸として捉えられることがありますが、それらを共に実現するためにどういったレベルでの努力が必要なのかについて、参考になる対談でした。これら3社の取り組みは、米国のすべての取り組みを代表するというものではありませんが、社員の声に耳を傾け、寄り添い、社員の成長と組織としての価値創造を共に実現しようという共通点は、一般的にイメージする、個人主義で、成果主義的な米国のパフォーマンス・マネジメントとは異なるように感じましたがいかがでしょうか。むしろ、日本で伝統的に取り組まれてきた、人を大事にする取り組みに近いように感じる部分もあると思います。こうしたことから、日本のこれからのパフォーマンス・マネジメントのあり方を考える上で、貴重なインサイトがあったように思います。

UPS社とThe E.W. Scripps Company社の対談

UPS社とThe E.W. Scripps Company社の対談では、コロナの影響を受けて、変化への対応にどのように取り組んだのかについて、それぞれのストーリーが語られていました。

UPS社は40万人以上の従業員を抱える巨大企業で、働く人のほとんどが、エッセンシャルワーカーだそうです。コロナ禍において、運送という社会の基盤となる機能を停止させないようにすることは、本当に大変なことだったと語られていました。そうした中で、HRが発揮した社内へのリーダーシップやコミュニケーションへの配慮がとても印象に残るものでした。

「HRでは、最初にタスクフォースを立ち上げたのですが、最初に話をしたのはリーダーたちに対してでした。私たちは彼らを導いていく必要があったからです。毎日Zoomで会議を行い、彼らが社員に対して正しい質問をするようにサポートしていました」

「HRが行っていることの1つに、出発前のコミュニケーションと称して、時給制の社員と毎日話をしています。新型コロナであろうが、内乱であろうが、自分たちにはどのような役割があるのか、自分たちがどれだけ重要であるかということを話しました」

アンジェラ・トンプソン氏(人事担当副社長、UPS社)

米国でテレビ局を運営する大手メディア企業 The E.W. Scripps Company社では、UPS社とはまた異なることが起こっていました。ラーニング&リーダーシップ開発担当ディレクターのアンディ・ピルルチェロ氏は、コロナ禍の影響の中で起こっていた組織の変化について、最初に以下のように語っていました。

「従業員の適応力と回復力に感銘を受けました。私たちは一夜にして、伝統的なレンガとモルタルのビジネスをバーチャルなものに変えてしまいました。今までになかったことです。パンデミックを克服し、市民の不安を取り除くために、自分たちで変化することができました」

2020年は米大統領選挙がある大事な年であり、パンデミックによる現場の問題を克服し、自分たちのジャーナリストとしての役割を達成しようとする社員の方の意志は並々ならないものがあったようです。こうした社員をサポートする取り組みは、UPSとは異なるアプローチとして語られていたように思います。

「シニア・リーダーシップ・チームは、3つの指針となる原則の設定を意図的に行っていました。それは、従業員の健康を守ること、視聴者やコミュニティにサービスを提供すること、そして事業の継続性を維持することでした。そして、ニュースを収集したり、最前線で働いている人たちの精神的、肉体的なサポートはもちろん、社会的な面でも従業員をサポートしていくことが大切です。リモートで仕事をしている従業員が、仲間とのコミュニティ感覚を維持できるように支援することは本当に重要です。共働きの人たちへの思いやりや共感の心のもち方、コミュニティの構築、そして市民不安を経験したときの平等と正義の受け入れ方など、私たちは従業員を全体的にサポートすることに重点を置いてきました」

「従業員がそのときの自分の気持ちや職場で起こっていることを話したり、管理職が自分に起こっていることを話してくれたりするときに、何が起こっているのかを理解することは、感情的な知性といえます。職場をよく知ることで、人事担当者はより良いサポートができるようになります。それが鍵になります。しかし、従業員のことを知らず、感情的な知性がなければ、とても難しい状態になるでしょう」

アンディ・ピルルチェロ (ラーニング&リーダーシップ開発担当ディレクター、The E.W. Scripps Company社)

UPS社とThe E.W. Scripps Company社がそれぞれコロナ禍で行ったHRの対応は、まったく異なるもののようにも映りました。それは、業種・業態がまったく異なり、組織のカルチャーや働く人々のマインドセットも異なることが理由のように思われます。一方で、HRの視点では、予想できない状況の中で、それぞれの企業のカルチャーや社員のマインドに合わせて、必要なアクションが生まれたように思います。そうしたアクションが生まれた背景には、2社に共通していた点があったように思います。それは、社員が置かれている状況を理解し、それに寄り添おうとするHRの姿勢、そして、社員に対する共感的なアプローチのように感じました。

パフォーマンス・マネジメントの変革に取り組む4社の事例

最後に、新しいパフォーマンス・マネジメントに取り組んでいる4社の事例について紹介したいと思います。
1. The E.W. Scripps Company社「レガシーな制度から、カジュアルなチェックインプロセスへ」
2. バクスター社「自社に最適な方法を見つけ、シンプルに。マネジャーと共に育むパフォーマンス・マネジメント」
3. AT&T社「フィードバックと会話の力を高め、ビジネスインパクトにフォーカスする」
4. BCG Digital Ventures社「ラインマネジメントの構造のないパフォーマンス・マネジメント-360度フィードバック」

1. The E.W. Scripps Company社「レガシーな制度から、カジュアルなチェックインプロセスへ」

The E.W. Scripps Company社は、141年続く伝統のある企業です。先にも記述した通りテレビ局を運営する米国の大手メディア企業で、コアバリュー(勇気、思いやり、卓越性、公正さ、誠実さ、尊敬)によって動かされる組織(Values driven organization)だそうです。

新しいパフォーマンス・マネジメントが導入される以前は、3月に目標設定をし、夏に中間査定を行い、メンバーとマネジャーの間で年1回レビューするという一般的な取り組みが行われていました。レビューは、メンバーが自己評価し、それをマネジャーがレビューし、最後に人事部がチェックする伝統的な方法でしたが、そこには以下のような課題があったそうです。

・ マネジャーはサインをするものの、日常で目標が達成されているかは確認していない
・ 自己評価は、従業員が1年を通して達成したことを“書物”にする作業になってしまっていた
・ マネジャーのレビューは、マネジャーがその“書物”をコピー&ペーストする作業になっていた
・ 人事部のチェックは、法律上のトラブルを回避するためにチェックするというものだった
・ 年に一度のレビューディスカッションは、以前に書いた“書物”を従業員に読み聞かせているようなものだった

そうした背景があって、「もっとカジュアルで、社員が目標を再確認する会話を楽しみにするようなプロセスにしたい」という願いで検討したそうです。そして実現したのが、非常にシンプルな四半期ごとのチェックインプロセスでした。チェックインでは、フォーマットに沿って、目標の達成状況、職場におけるポジティブなインパクト、新しいスキルや知識の習得について話すそうです。

導入に当たっては、マネジャーのスキルアップに注力したそうです。マネジャーがより良いコーチになれるように、新しいフィードバックを提供したり、できる限り最高のチェックインの会話ができるようなサポートを行ったそうです。

2020年は特にチェックインの必要性が高まり、メンタルヘルスに力を入れたとのことでした。近年、フェイクニュースなど、メディアに対するクレームもあり、社員のケアがより必要となる状況があったそうです。また、リモートワークがスタンダードになったことで、ワークライフバランスではなく、(コロナの影響で、家で子どもがいながらもZoomでミーティングをするなど)ワークライフインテグレーションが重要になったようです。そうした状況に対応するための具体的な施策として、グロース・マインドセットや心理的安全性、コーチングの仕方、積極的に話を聞く方法、様々なフィードバックのテクニック、マネジャーとしてのバイアスを最小化する方法など、基本的なテーマのコンテンツのバーチャルトレーニングコースを人事が用意したということです。

2. バクスター社「自社に最適な方法を見つけ、シンプルに。マネジャーと共に育むパフォーマンス・マネジメント」

続いて、85年以上の歴史をもち、100カ国以上で4万7000人の社員が働くバクスター社の事例です。バクスター社は、生命を救う、あるいは生命を維持する製品を生産し、社員は、人命を救い、維持するというミッションの下で働いているそうです。

バクスター社で新しいパフォーマンス・マネジメントを導入するきっかけとなったは、2016年にこれまでとまったく異なるスタイルのCEOが組織に加わったことだったそうです。以前のパフォーマンス・マネジメントは、7~8ページにも及ぶ人物評価の作成や中間評価のようなプロセスに20万時間以上もの時間を費やし、その一方で従業員と会話や、従業員のキャリア開発について話し合ったりすることには時間を費やせていませんでした。調べてみると、管理職は、多くの時間を文書の作成やタイピングに使っていることがわかったそうです。

新しい制度を検討するに当たっては、それまでの手法をシンプルにすることはもちろん、どうすればフィードバックの文化を生み出すことができるかということを重視したそうです。しかし、制度を変えるだけでは、効果的なフィードバックを提供することはおろか、メンバーと難しい会話に踏み込むこともできないため、管理職だけでなく、従業員がグロース・マインドセットをもち、自分のキャリアや能力を高めるためのフィードバックを求めることができるような能力開発が必要であると考えたそうです。

「膨大な時間をかけて能力を高めました。マネジャー向けのトレーニング、従業員向けのトレーニング、人事部向けのトレーニング、リソースの構築などを行いました。新しいアプローチに移行する際に、適切な会話をするために必要なツールを見つけられるようにしようとしたのです」

「能力開発の重要性について強調したいと思います。私たちの前に、この道を歩んでいた同じ役割の人と話していてわかったのですが、マネジャーが安心して自信をもってフィードバックを提供できるようにすることがいかに重要かということです」

ダニエル・ディートリッヒ氏(タレントプランニングおよび組織の有効性担当、シニアディレクター、バクスター社)

バクスター社では、アドビやパタゴニアなど新しい取り組みをしている企業についてベンチマーキングし、それぞれの会社のマネジャーと話をして、現在のプロセスの何が好きで、何が嫌いなのかについて理解することを行ったそうです。そうして考え出されたのが、非常にシンプルで、タイムリーなフィードバックを実現するACEというプログラムでした。ACEは下記の3つの単語をベースにしたプログラムです。このプログラムは、従業員と上司が一緒になって、1年を通して変化するアジャイルな目標を設定することを目的としているそうです。

Aline:マネジャーと従業員が一緒になって、1年を通して変化するアジャイルな目標を一致するようにすること
Check in:1〜2カ月に一度
Execute:目標を設定して、チェックインして、実行する。

チェックインでは、以下のシンプルな3つの質問を使って、メンバーはマネジャーに悩んでいることは何か、どうすればよいかを尋ねることができ、マネジャーは従業員にどう手助けすればよいか、また、どんな課題や障害に直面しているのか、手伝うことができることは何かを明らかにしました。

What’s going well ?(うまくいっていること)
What’s not going well ?(うまくいっていないこと)
How can I help you ?(支援してほしいこと)

そして、驚きだったことは、この新しい取り組みにおいて、バクスター社では原則として文書化を求めなかったことです。唯一パフォーマンスに関する問題が発生した場合のみ文書に残しているそうです。文書としてデータに残すことから脱却し、それ以上に、マネジャーと従業員の間でより多くの会話をすることを重視したのだそうです。

「私たちが見つけたことは本当に興味深いものでした。人々が会うようになっただけでなく、人間関係が構築され、そして、信頼関係が構築され始めたのです」 ダニエル・ディートリッヒ氏(タレントプランニングおよび組織の有効性担当シニアディレクター、バクスター社)

また、これから新しいパフォーマンス・マネジメントに取り組もうとしている人に向けた、ダニエル・ディートリッヒ氏からのメッセージの中に、参考になるものがありましたので、いくつか共有させていただきます。

「私から何かアドバイスをさせていただくとすれば、自社にとって最適なアプローチは何かを定義する必要があるということです。さらに重要なのは、リーダーたちがデータの重要性を理解し始めたとき、彼らは応援者になってくれたことです。本当に重要ないくつかのキーとなる指標を選ぶということ。これがACEで試みたことであり、相関関係を探してネットプロモータースコアをその指標としたことは大きなことでした」

「マネジャーを疑ってはいけません。彼らは誰かの助けを必要としています。マネージャがメンバーの能力開発に困っていたら、フィードバックの与え方を教え、コーチングの方法を教え、メンバーと能力開発について話すことを奨励してください。また、これはいくら強調しても足りませんが、従業員を訓練し、彼らに権限を与え、彼らがフィードバックを求め、キャリアについて話すべきであることを教えるのです」

「最後になりましたが、シンプルであることです。私たちはこのようにシンプルにしてきましたが、それが翼を得て、離陸することができた理由だと思います。」

3. AT&T社「フィードバックと会話の力を高め、ビジネスインパクトにフォーカスする」

AT&T社は、米国最大手の電話会社として有名ですが、現在はワーナー・ブラザーズとタイム・ワーナーを買収し、定額制動画配信サービスのHBO maxも抱える、テクノロジーを駆使したエンターテイメント企業へとして進化を続けているそうです。2020年に新しいCEOが就任し、企業の目的についてあらためて考え、「つながりをつくる」という基本に立ち返ったそうです。

そんなAT&T社からの共有は、フィードバックと会話の力を高め、そしてそれを継続的に行うための様々な取り組みでした。AT&T社では、2017年から新しいパフォーマンス・マネジメントの取り組みとして「How We Connect」というものを導入しているそうです。それは、1年に1回の目標設定と中間レビュー、そして年度末のレビューで5段階評価を行う伝統的な目標管理制度から、もっと頻繁に会話を行い(評価の驚きを少なくするために)、シンプル(柔軟なプロセス)で、ビジネスインパクトにフォーカスするという新しいものでした。それ以降、AT&T社では、会話の力を高めるための様々な取り組みが行われているそうです。

パフォーマンス開発を担当しているガイ・フレブル氏からは、以下のような取り組みの共有がありました。

会話ガイド
「さあ、話そう」ではなく「会話を組み立てる」という考え方を伝えるための1対1のテンプレートのようなもの。会話を組み立てるということは事前にトピックを設定する必要がり、例えば、現在のプライオリティについてであったり、今後の注力ポイントは何か、問題やチャンスについてなど話し合うことで、上司がもっと関与するようになり、短期的、長期的な成長について考えることができるそうです。最後に、サーバントリーダーシップとして、私に何かできることはありますか? という会話で締めくくるそうです。

会話ガイド
「さあ、話そう」ではなく、「会話を組み立てる」という考え方を伝えるための一対一のテンプレートのようなもの。会話を組み立てるということは事前にトピックを設定する必要がり、たとえば、現在のプライオリティや、今後の注力ポイントは何か、問題やチャンスなどついて話し合うことで、上司がもっと関与するようになり、短期的および長期的な成長について考えることができるそうです。最後に、サーバントリーダーとして、「私に何かできることはありますか?」という会話で締めくくるそうです。

ポッドキャスト
ポッドキャストの目的は、パフォーマンス管理やパフォーマンス開発に関連したノウハウを録音することでした。目標を計画するとき、あるいはOKRについて考えるとき、もしくは90日のゴールを設定するときのためのヒントを用意しています。それらを使って進捗を確認したり、フィードバックを提供したり、フィードバックを要求する方法をポッドキャストで紹介しているそうです。

リマインダー
目標に集中しているかどうか、何を達成したかだけではなく、どのように達成したのかという行動についても、考えておく必要があります。少なくとも四半期ごとに小さなリマインダーを送っているそうです。そうすることで、フィードバックやコーチングを受けることができるリソースに、社員を誘導することができました。これは好評だったそうです。

AT&T ユニバーシティ
これまで中間管理職がフィードバックを提供する際の洞察力や、会話を通して優先順位を変更する力を高めるため取り組みが、2021年からAT&T Universityとして設置されるそうです。

このように、会話の質の向上のために様々な取り組みを行っているガイ・フレブル氏から、会話をより良くするために以下のようなアドバイスの共有がありました。

「会話では、一方通行ではなく、コーチングのようなオープンエンドの質問が大切です。企業によってやり方は違うし、文化も違います。まずは、いくつか試してみる。やってみたら、どれがどう機能するかみてみる。すべてが完璧になることはないけれど、メンバーと上司が対話をしつづけて、パフォーマンスの向上と成長を促進することが大切です」 ガイ・フレブル氏(パフォーマンス開発、AT&T社)

4. BCG Digital Ventures社 「ラインマネジメントの構造のないパフォーマンス・マネジメント-360度フィードバック」

BCG Digital Ventures社(以下BGGDV)の取り組みについて紹介します。BGGDVは、ボストンコンサルティンググループ(以下BCG)のクライアント企業と協業して、起業家、イノベーター、グロースアーキテクト、投資家など、6つの分野の専門家からなるチームが、デジタル領域におけるイノベーティブなサービス・プロダクト・事業創りを行っているそうです。

以前のパフォーマンス・マネジメントは、BCGのフレームワークにコーチの導入を仕組みとして加えたものだったそうです。BCGが重視している360度による豊富なフィードバックは、フィードバックに基づいて意思決定を行いたいと考えているリーダーたちには効果的ですが、専門家で構成されるBGGDVでは、リーダーから最も有益な洞察を得られるとは限らなかったそうです(たとえば、マーケティングが専門のリーダーが、優れたエンジニアやデザイナーをどのように育成すればよいかがわからないなど)。さらに、社員から「プロセスに透明性がない」という意見が出てきていたそうです。実際、コーチは結果を伝えることが難しいと感じており、評価のためのデータ収集にほとんどの時間を費やしていました。会社としては、人材開発にもっと力を入れるべきだと考えていましたが、コーチの多くは評価のための作業に終始していたそうです。

そこでプロジェクトチームは、プロフェッショナルサービス企業とハイテク企業の両方を調査し、両者の長所を生かしたアプローチを開発しました。その「グロース&インパクト」という新しいプログラムでは、キャリア開発と、社員に提供する没入型の体験を通じた学習に重点を置いていたそうです。

導入にあたっての最大の課題は、コンサルティングファームの人事制度の根幹にあった相対評価を恒久的に廃止したことでした。しかし、年に2回、トップパフォーマーを昇格させるなど、ビジネス上の必要性がある場合には昇進させるというコミットメントは維持したようです。また、新規に全員が個人の成長計画をつくり、成長目標を設定するよう奨励したということでした。

評価については、360度フィードバックを維持したそうです。社員の70%は、正式なラインマネジメントの構造をもっていないので、360度フィードバックは、様々なプロジェクトを通して、パフォーマンスがどのように発揮されたのかを知るのに必要だということでした(2020年は、コロナの影響により360度フィードバックの参加率が記録的な高い水準に達したとのこと)。

また、キャリブレーションについて、従来のやり方は成績優秀者と成績が振るわなかった一部の人に焦点を当てていましたが、新しい制度では、すべてのメンバーが1年間のパフォーマンスについて議論する時間を平等にもつということを行っているそうです。パフォーマンスの観点と、成長段階に応じた目標からの議論が行われ、パフォーマンスの分布に基づいて報酬が決定されます。成績優秀者と成績不振者だけではなくて、すべてのメンバーについて、能力開発や業績評価のために議論する機会があることを大事にしているそうでした。

カンファレンスに参加してのインサイト

ヒューマンバリューでは、2017年から毎年参加していますが、今回顕著に感じたことは、新型コロナの影響により、新しいパフォーマンス・マネジメントの方法論(頻繁な会話の機会や柔軟な目標設定など)は、遅かれ早かれ、皆が取り組むことになるトレンドのように話されていたことです。そして、この変化の激しい状況の中で、社員の置かれた状況を理解するため、共感的に社員と会話をしようとするHRのリーダーシップが印象的でした。カンファレンスの多くの多くの時間、いかにして社員とコミュニケーションを取り、関係性を高め、目的を共有し、成果を生み出すかという、本質的な議論がされていたように思います。

今回は、新型コロナウイルスの危機に米国の企業ではどのように対応したのか、最新の動向を調査することを目的として参加しましたが、振り返ってみて、以下のような気づきがあったように思います。

・ 新型コロナによってビジネスが不確実性に直面したことで、アジャイルなパフォーマンス・マネジメントへの移行が加速している
・ 不確実性が高い環境下で、リーダーによる意思決定ですべてに対処することは難しく、チームでのセルフマネジメントの重要性が高まっている(目標の設定もその管理も、自分たちで)
・ コロナ禍で仕事よりも大事なもの(家族や自身の健康)が社会的な感情として際立った中で、メンバーの話を聞き、相手に共感し、その上で共通の目的を共有できるマネジメントがこれまで以上に必要とされていた
・ シンプルで、柔軟なチェックイン(定期的な会話)のプロセスが、スタンダードになりつつある
・ 変化の激しい環境におけるマネジャーの新しい役割の定義が明らかになりつつある

こうした気づきは、カンファレンスの冒頭に、オーガナイザーのハリス氏から共有されたパフォーマンス・マネジメントのトレンドと通貫するものでした。実際に効果を生み出すフェーズに多くの企業が踏み出したことによって、パフォーマンス・マネジメントは進化し、さらに先の探求が続いているように思います。

今後もこうして進化を続ける新しいパフォーマンス・マネジメントについて、継続して探求を深めていきたいと思います。

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