海外カンファレンス報告

「パフォーマンス・マネジメント変革」の目的を問い直す
〜Performance Management Conference 2019 参加報告〜

2019年11月14〜15日の2日間にわたって、米国ニューヨークにてPerformance Management Conference 2019 が開催されました。

今年で4回目の開催となる本カンファレンスでは、特に、パフォーマンス・マネジメントに取り組む目的をここであらためて確認することの大切さと、現在の取り組みの結果が、その目的に沿っているのかどうかを定期的に見つめ直し、軌道修正しながら変化を育んでいく企業の姿を感じることができました。そこで、ここからはカンファレンス期間中に印象に残ったセッションの内容をご紹介し、最後にカンファレンス全体を通して得られた学びやインサイトを述べたいと思います。

カンファレンスの概要

<会場の様子>

Performance Management Conference 2019は、2019年11月14〜15日に、米国ニューヨークで開催されました。本カンファレンスは、米国を拠点とするシンクタンクのConference Boardが主催しており、今回は123名の参加者がありました。海外からの参加者数は過去最高となり、このトレンドが広がり続けていること、米国外の企業の関心の高さをうかがい知ることができました。また、参加者の多くは企業の人事・人材開発や経営戦略を担う部署に所属する方々ですが、コンサルタントや研究者の参加者も見受けられました。

2010年ごろから新たなパフォーマンス・マネジメント革新(PMI)の動きが高まり、ノーレイティングの導入などの先進的な取り組みが驚きをもって受け止められました。以降、そうした取り組みがトレンドとなってきていますが、同時に、制度変更や取り組みプロセスのベスト・プラクティスを学ぶだけでは、自社での取り組みに生かすためには十分ではないこともわかってきました。今回のカンファレンスでは、ベスト・プラクティスだけでなく、各企業が直面している困難への向き合い方、組織の個別性を超えて重要となるポイントなどを知りたいと思い、本カンファレンスに参加することにしました。

基調講演:パフォーマンス・マネジメントの目的を再確認する

<基調講演を行うPDRIのPulakos氏>

2日間の口火を切った基調講演は、昨年に引き続き、米国のコンサルティング会社PDRIのElaine Pulakos氏が登壇しました。ビジネスで成功し続けるために必要となる、組織のアジリティとレジリエンスを高めるためには、以下3つの観点が重要になるというお話がありました。以下、1つずつご紹介したいと思います。

1.適切なバランスのチームワーク(Rightsized Teamwork)
近年の職場では、クロスファンクショナルなチームで仕事を行う機会が増えており、チームワークの向上をうたう組織が増えていますが、多くの人は適切なコラボレーションの仕方を知らず、チームが機能不全に陥ってしまっていることも少なくありません。仕事のタイプやタイミングを見極め、個人で行う業務とチームワークを適切なバランスで組み合わせることが、より重要になってくるそうです。チームで生み出す価値を最大化するために、どのタイミングで、どのようにコラボレーションすべきかを考えながら仕事に取り組むことが、大切になってきます。

2.チームでの継続的な軌道修正(Relentless Course Correction)
Pulakos氏によると、チームがうまく機能しないとき、メンバー個人のスキルや能力が要因となっていることは少なく、チームが構造的な問題を抱えていることが多いそうです。また、現代の変化が激しく、フラット化したチームにおいては、マネジャーがすべてを把握し、課題に対して適切な介入や対策を行うことが困難になってきています。そのため、チームを構成するメンバー全員が、チームの状態やパフォーマンスを見るための指標を設定・モニタリングし、何か問題が起こった際には、チーム全員が軌道修正に取り組めるようにすることが求められています。

3.確実性・安定性(Stability)
変化が激しいVUCAの時代に適応するために、常に変化し続けることが求められがちですが、真に変化に適応するためには、確実性や安定性を高めることで、パフォーマンスを高めることに集中できるようになると、Pulakos氏は述べます。チームの心理的安全性を高めるだけではなく、未来に対して確信をもち、チームの楽観的思考を高めるといったことも、今のリーダーに求められている要素であるそうです。

組織として、継続的にビジネスで成果を上げ続けていくためには、上記のようなポイントを押さえ、アジリティやレジリエンスを高めることが求められているようですが、Pulakos氏は「自社のパフォーマンス・マネジメントはアジリティやレジリエンスを高めるしくみになっているか」「今、多くの企業が取り組んでいるパフォーマンス・マネジメント革新が、何を目的にしているのか、進めている取り組みがその目的に沿っているのか、あらためて見直してみる必要がある」と投げかけ、基調講演が締めくくられました。

パネルディスカッション:「フィードバック」の今後

<右から、シスコのFrench氏、マイクロソフトのFriedman氏、プルデンシャルのDonovan氏、モデレーターを務めたカンファレンス・ボードのGinsberg氏>

近年、ハーバード・ビジネス・レビューで取り上げられるなど、フィードバックが注目されています。本カンファレンスでもフィードバックをテーマとして取り扱うセッションが、パネルディスカッション形式で行われ、シスコ、マイクロソフト、プルデンシャル の方々がパネラーを務めました。

マイクロソフトでは、フィードバックを促進するような組織文化をつくるために、グロース・マインドセットをキーワードとした取り組みを行っているそうです。フィードバックというと、マネジャーのスキル不足が注目されがちですが、「フィードバックによって実現したい状態というのは、マネジャー・メンバー間で質の高いカンバセーションを行ってもらうこと、受け取ったフィードバックによって内省が起こることではないか。そのためには、組織全体でNVC (Non Violent Communication)※、傾聴や共感のレベルを高めていくことが重要なのではないか」といった問いが、会場に投げかけられていました。マイクロソフトでは取り組みの一環として、「Feedback」という言葉が恐れを生む傾向があるため、かわって「Perspective」という言葉を使うことで、フィードバック提供者の一視点として受け止めやすくする努力を行っているそうです。

シスコでも、フィードバックが社員の恐れを生んでしまっている現状を受け止め、より「素晴らしい仕事」や「成長」に焦点を当て、良い仕事が「なぜうまくいったか」「どうやったらもっと広げていけるか」という会話が起こるような取り組みにシフトしているといいます。

このパネルディスカッションでは、ツールや方法論にとらわれすぎることなく、「フィードバックによって何を実現したいのか」を手放さずに取り組むことがポイントになるといったことが、共通して語られていました。

※ Non Violent Communicationの詳細については『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』(マーシャル・B・ローゼンバーグ著、日本経済新聞出版社)をご参照ください

パタゴニアの事例:組織ミッションから考えるパフォーマンス・マネジメント変革

<パタゴニアのSerota氏>

「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッションの下、近年、アウトドア用品に加えて、オーガニック食品といった領域にも取り組んでいるパタゴニアですが、パフォーマンス・マネジメントにおいても、目指しているカルチャーやフィロソフィーと整合するよう、変革に取り組み続けている様子が紹介されました。

100年後もパタゴニアらしさを表現していくために、よりパタゴニアらしい働き方を模索する中で現在チャレンジしているのが、「肩書(Title)をなくす」という取り組みだそうです。組織全体としては、「社員一人ひとりが自ら思考し、自社のミッション実現に向けて取り組むことができる」というフィロソフィーをもっているにもかかわらず、実際には、社員を伝統的なヒエラルキーに当てはめてしまっていることによって、社員の成長や促進すべき行動を妨げてしまっているのではないかという現実にしっかりと向き合うことにしたそうです。

ここまでの取り組みを経て、肩書をなくす前となくした後での組織内の会話の質の変化に驚いているという言葉もありました。権力や意思決定の方法を見直すような会話が起きたり、役割ではなく、よりインフォーマルな力(強み、情熱など)が重視されるようになるなど、仕事の進め方が変化したそうです。また、キャリアについても「どの肩書を目指すか」という視点ではなく、より主体的に考えられるようになってきているそうです。報酬面など、まだまだ道半ばではあるようですが、これまでのやり方にとらわれず、組織のミッションを軸とした本質的な問いに向き合い続ける覚悟を感じる内容でした。

メドトロニックの事例:変革の取り組みを生成的にデザインし続ける

<メドトロニックのWalter氏>

医療機器を扱うメドトロニックは、今回のカンファレンスで唯一、2010年から現在の間に2度の制度変更を実践した事例を紹介してくださいました。2010年には、レイティングを廃止し、頻繁でインフォーマルなカンバセーションを促進することで、より質の高い会話が生まれることを期待していましたが、実際にはエンゲージメントの低下やカンバセーションに割く時間が減ってしまうといったことが起きてしまいました。要因としては、新たなしくみをデザインした後、変革の全体デザインがうまくできなかったことがあるようです。具体的には、マネジャー・トレーニングを実施しなかったことや、レイティング廃止後、組織のパフォーマンスを高めるための取り組みを導入しなかったことなどが挙げられました。

そうした状況を受けて、2014年にコヴィディエンとの統合をきっかけに、制度、トレーニング、レコグニション(承認)さ、キャリア、目標設定やフィードバックなどの取り組みと合わせて、より全体感をもったデザインを行い、社員の成長を後押しするというチャレンジを行っているそうです。

登壇したWalter氏は、最初の取り組みはうまくいかなかったものの、そこから得た反省・学び(自社の文脈に合ったチェンジマネジメントを行うこと、他の取り組みを含めた全体感を意識すること)を踏まえ、次の変革の取り組みに生かしていくことが大事だと語っていました。

新しい制度では、レイティングも再導入されているようで、まさにパフォーマンス・マネジメントの取り組みには正解がなく、それぞれの組織のコンテクストに合った制度をつくっていくことの大切さを語る事例である思います。また、一度つくり上げた制度に固執せず、目指したい姿に向かって軌道修正しながら変化し続けていくHRやシニアリーダーの柔軟性も印象に残る発表でした。

カンファレンス全体を通しての所感

ここまで、2日間の中でも印象に残ったセッションの内容をご紹介させていただきましたが、カンファレンスに参加してみて得られた気づきとして、以下の3つを挙げたいと思います。

1.個人のパフォーマンスからチーム・パフォーマンスへのシフト
昨年も、「多くのパフォーマンス・マネジメントの取り組みが個人のパフォーマンスに焦点を当てすぎてしまっている」という懸念が語られていましたが、今年のカンファレンスでもこうした流れが続いているように感じました。個人のスキルや能力を高めるだけでは、チーム、ひいては組織全体のパフォーマンス向上にはつながりにくく、コラボレーションのあり方や仕事の進め方、それを支える評価や承認のあり方にも変革が求められています。

こうしたことは、同時にチームのあり方そのものにも変化が求められているといえるのではないでしょうか。変化が激しく、組織の枠を超えてコラボレーションする機会が増えていることからも、マネジャーがチームやメンバーそれぞれの仕事ぶりを管理し、フィードバックを与えることが難しくなってきています。そうした中では、メンバー一人ひとりが自チーム全体のパフォーマンスへ意識を向け、パフォーマンスを高めるための取り組みを自分たち自身で実践し続けることが求められるようになってくるのではないかと感じました。

<ヒューマンバリューで活用している3層モデル>

2.実現したい状態に立ち返る
今回のカンファレンスでは、全体を通して、私たちがなぜパフォーマンス・マネジメント変革に取り組むのか、何を目指して取り組むのかをあらためて問い直すこと、また取り組みを進めていく間にも、継続的に確認をし、取り組みの本質を見失わないことの重要性を示唆するような事例や問いかけ・主張が多かったように感じました。

ヒューマンバリューでのこれまでの研究の中でも、①制度やしくみ、②組織の戦略やカルチャー、③組織の哲学・フィロソフィー、3層の整合性を図る取り組みが必要であると語ってきましたが、これは取り組みをデザインするフェーズだけにとどまらず、取り組みを進めている途中でも、折に触れて3つの層の整合性を振り返り、確認し続けていくことが、よりリアリティに向き合うことにつながるといえるかもしれません。

3.パフォーマンス・マネジメントの目的とは
2日間のカンファレンスの中では、自社で実現しようとしているパフォーマンス・マネジメントの目的と進行中の取り組みを照らし合わせて確認することが重要であると語られていましたが、パフォーマンス・マネジメントの目的としてはどんなものが適切なのだろうかという疑問も、同時に湧いてきました。

本カンファレンスで事例発表を行った企業も、様々な目的やゴールをもってパフォーマンス・マネジメントの変革に取り組んでいました。こうした目的とは、それぞれの組織のコンテクストに合った固有のものであるべきですが、組織のミッションを実現するために変革を行うのか、継続的にビジネス優位性を保つために変革を行うのか、どんな目的を設定するかによっても、取り組みの質や生まれる変化に違いがあるのではないかと感じました

ここまで、Performance Management Conference 2019 の内容やそこで得られた気づきをご紹介してきました。私(佐野)自身も2015年ごろからパフォーマンス・マネジメント革新のトレンドを追い続けていますが、組織として実現したい世界を見つめ直すことに立ち返ることの意義をあらためて感じるカンファレンスとなりました。お読みいただいた皆さんの組織においても、本レポートが何かしらのきっかけや気づきとなり、それぞれが目指す目的を実現していくための一助となればと思います。

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