コラム

3層の複層的変化と、その整合性を図る重要性

米国を中心に、多くの先進企業がパフォーマンス・マネジメントの革新に踏み出している昨今、その流れはとどまることを知らず、幾何級数的に革新の営みが広がっています。その影響は日本にも伝わってきており、「年次評価を廃止」「人事評価制度を変更」といったキーワードをメディアでよく見かけるようになりました。 そうしたパフォーマンス・マネジメント革新の流れの中で、いったい今何が起きていて、どういった変化が生まれているのかについて、気になっている方も多いのではないでしょうか。また、この流れに順応するために、新たな取り組みを模索し始めている方も多いかもしれません。 そこで、本稿では、パフォーマンス・マネジメント革新で起きているさまざまな変化を俯瞰して、3つの層(1.手続き・制度・ツール、2.戦略・カルチャー・マインドセット、3.人・組織と社会の哲学)で捉えた上で、それらの整合性を図ることの重要性について、ご紹介できればと思います。

起きている変化1層目:手続き・制度・ツール

パフォーマンス・マネジメント革新の流れの中で起きている変化の1層目に位置づけられるのは、手続き・制度・ツール面での変化です。

具体的には、たとえば「レーティングの廃止」「ノーカーブ(定められた分布にあてはめる相対評価を止める)」「報酬決定におけるマネジャーの裁量拡大」「頻繁なカンバセーション」「対話を促進するツール・アプリの活用」といったことが挙げられます。

これらの変化は、従来のパフォーマンス・マネジメントの課題(たとえば、レイティングやカーブに当てはめることによる従業員のエンゲージメント低下、限られた面談による評価の納得性の欠如、現場でのパフォーマンス・マネジメントの実践におけるマネジャーの負荷の高まりなど)への対応という形で生み出された営みと受け取れるかもしれません。

起きている変化2層目:戦略・カルチャー・マインドセット

起きている変化の2層目に位置づけられるのは、戦略・カルチャー・マインドセットの変化です。

パフォーマンス・マネジメントの仕組みや制度、ツールを変えること自体が目的なのではなく、その背景にある組織として実現したい戦略やカルチャー、マインドセット(思考や行動の様式)などの変化に着目する捉え方です。

現在、企業を取り巻く経営環境は、VUCAワールドという言葉で表されるように、ますます複雑で不確実さが増しています。そのような状況では、ビジネスに関わるトレンドも「静的環境」「クローズシステム」「管理・コントロール」「外発的動機づけ(アウトサイドイン)」から、「動的環境」「オープンシステム」「自律・コラボレーション」「内発的動機づけ(インサイドアウト)」へと新しく変化してきていると言えるのではないでしょうか。

このようなビジネスに関わるトレンドの変化に順応する形で、組織が目指している実現したい戦略やカルチャー・マインドセットも変化しているのではないでしょうか。具体的には、現在、パフォーマンス・マネジメントの革新に取り組んでいる企業の多くは、「コラボレーション」「アジャイル」「グロース・マインドセット」「カスタマー・フォーカス」といったことをより重視するようになってきています。

起きている変化の2層目に位置づけられるのは、戦略・カルチャー・マインドセットの変化です。
パフォーマンス・マネジメントの仕組みや制度、ツールを変えること自体が目的なのではなく、その背景にある組織として実現したい戦略やカルチャー、マインドセット(思考や行動の様式)などの変化に着目する捉え方です。

現在、企業を取り巻く経営環境は、VUCAワールドという言葉で表されるように、ますます複雑で不確実さが増しています。そのような状況では、ビジネスに関わるトレンドも「静的環境」「クローズシステム」「管理・コントロール」「外発的動機づけ(アウトサイドイン)」から、「動的環境」「オープンシステム」「自律・コラボレーション」「内発的動機づけ(インサイドアウト)」へと新しく変化してきていると言えるのではないでしょうか。

このようなビジネスに関わるトレンドの変化に順応する形で、組織が目指している実現したい戦略やカルチャー・マインドセットも変化しているのではないでしょうか。具体的には、現在、パフォーマンス・マネジメントの革新に取り組んでいる企業の多くは、「コラボレーション」「アジャイル」「グロース・マインドセット」「カスタマー・フォーカス」といったことをより重視するようになってきています。

つまり、従来のパフォーマンス・マネジメントのままでは、コラボレーションやアジャイルが促進されなかったり、グロース・マインドセットが育たなかったり、カスタマー・フォーカスに向かいにくくなっており、そうした状況を転換するために、パフォーマンス・マネジメントの革新が起きているというのが、2層目(戦略・カルチャー・マインドセットの変革)の捉え方です。

起きている変化3層目:人・組織と社会の哲学

起きている変化の3層目には、人・組織と社会の哲学の変化です。
現在のパフォーマンス・マネジメント革新をあらためて俯瞰してみると、企業と従業員との関係において、企業側を主体、従業員を客体と見なすあり方から、従業員が主体で企業がその主体を支える立場を取るという世界観への転換と捉えることができるのではないでしょうか。

パフォーマンス・マネジメントに関連する言葉として、私たちがよく目にする「社員を成長させる」「社員のやる気を引き出す」という言葉の背景には、企業側が社員にそうさせるというスタンスがあります。一方で、たとえば、「社員が自ら成長できる経験や機会を最大化する」「社員が主体性を解放できるように支援する」という言葉には、社員が主体者として存在し、企業はそれをサポートするというスタンスがあるのではないでしょうか。ヒューマンバリューではこのような世界観の転換を、「『カンパニーセンタード」から『ピーブルセンタード』への展開」という言葉で表現しています。

このような根底に流れる人や組織を見る世界観の変化が、「パフォーマンスの捉え方」「制度・仕組み」「人材マネジメント」「マネジャーの役割」「組織のあり方」にも影響を与え、それらの意味の転換にもつながっているように考えられます。

3層の整合性を図ることの重要性

ここまで、パフォーマンス・マネジメント革新の流れの中で起きているさまざまな変化を3つの層から捉えてきました。
では、これから先、自身が関わる組織に効果的に働きかけを行っていく上で、どういったポイントを押さえていけばよいのでしょうか?

具体的には、ここまで述べてきたように、仕組みの変更が重要なのではなく、パフォーマンス・マネジメントの革新を通してどういった状態を実現したいのか、どういうフィロソフィーを大切にしたいのかを明らかにすることが大切になります。また、現状がどういった状況なのかによっても、働きかける対象や打ち手などが変わってくるため、これが正しいといった正解はないように思います。

そんな状況だからこそ、個別の事象に対してどうするのかといったことを考えるのではなく、3つの層の整合性を図りながら、できるところから取り組みを進めていくことが重要になってくるのではないでしょうか。

この3つの層の整合性が取れていないまま、たとえば制度やツールだけを変えたとしても、それらを運用する人や組織のカルチャー、マインドセット、哲学が一貫していなければ、制度や仕組みが独り歩きしてしまい、理想の状態へと革新が進まないように思います。また、人や組織のマインドセットや哲学を変えようとしても、制度やツールが従来の仕組みのままでは、たとえ一時的にはマインドセットや哲学が変わりかけたとしても、また元に戻ることが起こるかもしれません。
そういった意味で、この3層の整合性を図るという観点をもちながら、取り組みを進めていくことがポイントのように思います。

最後に

本稿では、パフォーマンス・マネジメント革新で起きているさまざまな変化を俯瞰して3つの層で捉えた上で、それらの整合性を図ることの重要性について、ご紹介してきました。

パフォーマンス・マネジメント革新の取り組みは、正解や答えがあるわけではなく、生成的なプロセスを辿っていきながら、その組織に合うパフォーマンス・マネジメントを育てていく営みのように思います。
そのようなプロセスの中で、本稿にまとめた観点が少しでもお役に立てれば幸いです。

本稿は、2017年2月15日に開催された『パフォーマンス・マネジメント革新フォーラム』における(株)ヒューマンバリュー 代表取締役副社長 阿諏訪博一の講演内容をヒューマンバリューが編集したものです。

一覧に戻る