コラム

PMIに関わる要因を構造的に捉える

パフォーマンス・マネジメント革新の流れは米国だけにとどまらず、日本でも着実に広がりをみせているように感じます。手続き・制度・ツール上の革新だけではなく、その背景にある会社のカルチャーや社員のマインドセットの変化、さらにはその奥にある人間観や世界観といったフィロソフィーの変化も同時に起きているように思います。 本稿では、この「整合性を図りながら、取り組みを進めていく」ということについて、一体どのような観点をもって整合性を図っていくのかを考えていきたいと思います。

※前稿では「パフォーマンス・マネジメント革新で起きている3つの複層的変化とその整合性を図る重要性」というテーマで、パフォーマンス・マネジメント革新の流れの中で起きている変化を複層的に捉えた上で、それらの整合性を図りながら取り組みを進めていく重要性についてご紹介しました。

全体システム(構造)を捉え、整合性を図る

人事評価制度に目を向けると、そこには会社のビジョン・バリューから始まり、現場でのマネジメントや制度の運用、また制度の内容といったさまざまな要因によって構成されていることがわかります。
もちろん、これらの他にもいろいろなものが考えられます。
以下は、参考までに、もう少し広い視野からパフォーマンス・マネジメントに関わる要因を抽出してみたマインドマップです。

これこのように、さまざまな要因が関わっているパフォーマンス・マネジメントにおいて、個別の事象だけを捉えていても、整合性は取りづらいのではないでしょうか。

そこで、パフォーマンス・マネジメントに影響を与える要因を全体システムとして捉え、起きている事象を出来事レベルではなく、構造で捉えることによって、より整合性の取れた取り組みへとつなげていけるのではないかと思います。

一口に構造で捉えるといっても、さまざまな観点から探求することができるでしょう。ここでは、パフォーマンス・マネジメントを構造的に捉える観点について、いくつかの例を紹介したいと思います。

構造で捉える1:成果主義の運用と副作用

現在、多くの企業では、成果主義的な人事制度を導入しているかと思います。そこで、最初に成果主義的な人事制度が、いまどういった実態になっているのかを構造で捉えてみたいと思います。

成果主義の取り組みというのは、「成果を見える化」する取り組みと捉えることができます。そして、「成果を見える化」したら、「成果と報酬の結びつき度合い」(成果が上がれば報酬を上げるなど…)を高めることによって、社員の「成果を高める行動」を促進させ、「成果・パフォーマンス」を高めていく。成果主義の取り組みでは、このような拡張プロセスを回すことによって、企業や組織として成果を高め続けていくことを目指してきたと考えられます。

ただ、実際にはこの拡張プロセスを回していると、次のような副作用が生まれてくるのではないでしょうか。

たとえば、右下のサイクルのように「成果と報酬の結びつき度合い」を強め過ぎると、社員のモチベーションや内発的動機が落ちてくる(仕事の結果だけが報酬と結びつくため、仕事のやりがいであったり、仕事を通して実現したいことに想いを向けるよりも、どうしても成果や報酬に目が行きがちになる)といった平衡プロセスが回り始めるかもしれません。

また、右上のサイクルのように、「成果の見える化」を進めていくと、どうしても不公平感が高まってくるかもしれません。成果を定量化しようとすればするほど、「本当に自分の業績は正しく評価されているのだろうか」、「本当に公平に見てもらっているのだろうか」という思いが生まれ、それが成果主義の拡張プロセスにブレーキを掛ける要因となるかもしれません。

他にも、左上のサイクルのように、「パフォーマンス・マネジメントの稼働」(マネジャーの負担など)が高まることによって、同じく拡張プロセスにブレーキが掛かる可能性も生まれてきます。

もしかしたら、いまのパフォーマンス・マネジメントの革新の動きは、ある意味で、ここまで見てきた成果主義的人事制度の構造の中のこの3つのブレーキを解消していこうという営みとも言えるでしょう。

構造で捉える2:価値創出に向けたアプローチ

パフォーマンス・マネジメントを「価値を創出するアプローチ」と捉えてみると、たとえば下図の、上半分のサイクルのように、「価値創出の必要性」が高まったときに、シェアド・ビジョン(共有ビジョン)を行い、メンバーの使命感や目的意識を醸成し、「主体的取り組みやイノベーションを生み出す」というサイクルで、価値創出を行うというやり方が考えられます。

もう一方で、下半分のサイクルのように、「理想と現実のギャップ」を明らかにすることで、社員の「危機感、恐れ、プレッシャー」を高め、それによって「パフォーマンス向上への取り組み」を推し進めようという営みもあるように思います。

この2つの営みを比較したときに、どうしても上半分のサイクルは時間がかかってしまうため、比較的時間がかからない下半分のサイクル(ギャップアプローチ、プレッシャーマネジメントなど)を推し進めて、短期的な価値創出を行う傾向が強くなってしまいます。

そうして、この下半分のサイクルだけを回し続けていると、その副作用として、右の外側のサイクルのように、社員の「フィックスト・マインドセット」が助長され、その結果、本来やりたかった主体的取り組みやイノベーションを生み出すことができなくなってしまうというブレーキが掛かってしまうように思います。そして、いったんそのサイクルが回ると、より一層、ギャップを明らかにするアプローチに頼らざるを得なくなってしまうわけです。

現在、パフォーマンス・マネジメント革新で目指していることは、もしかしたら、このシステムの右の外側で起きている悪循環をより良い循環に変えていこうという営みとも言えるかもしれません。

そこで、次にパフォーマンス・マネジメント革新の取り組みを構造的に見ていこうと思います。

構造で捉える3:パフォーマンス・マネジメント革新の取り組みⅠ

パフォーマンス・マネジメント革新の取り組みで目指していることとして、たとえば、組織の中で「シェアド・ビジョン(共有ビジョン)」を行い、社員の「主体的取り組み」を高め、価値を創出することによって、社員の「グロース・マインドセット」を育んでいくという好循環が回ることがあるように思います。

ただ、この好循環を回そうとすると、価値を出すことに対して、どうしても「競争意識」や「比較される不安」「プレッシャー」などが出てくることもあるのではないでしょうか。そこで、これらの不安やプレッシャーを解消するために、仕事を「インパクト・ベース」で捉えたり、「ノーレーティング」や「ノーカーブ」、「質の高い頻繁なカンバセーション」などを実践していこうという流れが起きているように考えられます。

また、別の視点から見てみると、この好循環を上司・部下間だけで回しているだけでは、どうしても限界があるように思います。そこで、この循環をよりチームや組織に広げていくために、たとえばカンバセーションを上司と部下だけでやるのではなく、チームでカンバセーションを行う(チーム・タッチポイント、カンバセーション)ことによって、「集合学習」を促進し、「ソーシャル・キャピタル」を高めて、「コラボレーション」を推進し、組織的な価値創出につなげるといったことも、パフォーマンス・マネジメント革新の1つの取り組みと言えるのではないでしょうか。

最後にもう1つだけ、パフォーマンス・マネジメント革新の取り組みを見ていこうと思います。

構造で捉える4:パフォーマンス・マネジメント革新の取り組みⅡ

価値創出の必要性が高まったときに、組織のフィロソフィー(マインドセットやカルチャーなど)を変革していこうとするやり方(下図、下半分のサイクル)と、ノーレイティングやノーカーブ、頻繁なカンバセーションといった手続き・制度・ツールを変革していこうというやり方(下図、上半分のサイクル)があるように思います。

実際には、両方のサイクルを整合性を図りながら回していくことが重要ですが、どうしてもフィロソフィーの変革には時間が掛かってしまいます。一方、手続き・制度・ツールを新しくすること自体は比較的取り組みやすいので、上半分のサイクルだけを回そうとしがちです。

しかし、そうした場合、組織に従来から存在するマインドセットやフィロソフィーと、実際の手続き・制度・ツールの実践(運用)方法にギャップが生まれるため、整合性が取れなくなり、やがて形骸化し、結局、シャドーレイティングのように従来の運用方法と変わらないやり方が、現場の中で取られるようになってしまいます。(右側のサイクルが回ってしまう)

最後に

本稿では、パフォーマンス・マネジメントに関わる領域において、その要因や影響関係をいくつかの構造として捉え、紹介してきました。

今回紹介した構造は、あくまで一例ですので、もちろん他の見方もできるかもしれませんが、起きている事象を構造で捉えた上で、効果的な打ち手を考えていくという思考プロセスを紹介できればという想いで記事にいたしました。

今後皆さんがパフォーマンス・マネジメント革新の取り組みを推進される中で本稿にまとめた観点が、少しでもお役に立てれば幸いです。

本稿は、2017年2月15日に開催された『パフォーマンス・マネジメント革新フォーラム』における(株)ヒューマンバリュー 代表取締役副社長 阿諏訪博一の講演内容をヒューマンバリューが編集したものです。

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