コラム

従来のパフォーマンス・マネジメントの課題

2015年の5月時点でも、すでにフォーチュン500社の10%以上の企業が、年に1回の評価・ランキングを廃止し、継続的なカンバセーションを中心とするパフォーマンス・マネジメントの革新に取り組んでいることがわかっています。 その勢いは、2016年に入ってからさらに加速していて、2017年までにはその割合が50%にまで達すると予測する研究者も現れています。 どうして、このような急激な変化が起きているのでしょう。 企業がVUCAに適応しようとしている今、これまでのパフォーマンス・マネジメントが機能しない、むしろ阻害しているという側面が明らかになってきたからだと思われます

パフォーマンス・マネジメントの革新の背景にある3つの要因

変革の背景には、3つの要因が考えられます。
1つは、「ビジネス環境の変化」です。これは、「パフォーマンス・マネジメント革新が求められる背景」のレポートで紹介させていただいたところです。
2つ目は、「従来のパフォーマンス・マネジメントの課題」。
そして、最後が、「ニューロ・サイエンスの進化による新たな発見」です。

いまニューロ・サイエンス(脳科学)が非常に進化しており、脳の構造がさまざまな形で明らかになってきています。もちろん、現在、脳の構造についてすべてがわかっているわけではありませんが、それらが明らかになるにつれ、マネジメントのあり方や組織のあり方へ大きな影響を及ぼしています。

従来のパフォーマンス・マネジメントの4つの課題

従来のパフォーマンス・マネジメントの課題として、ここに4つ挙げてみました。
従来のパフォーマンス・マネジメントは、現在においては従業員やマネジャーのエンゲージメントを低下させているのではないか、マネジャーとメンバーの関係を悪化させているとか、力をかけている割にはなかなか成果とか効果につり合わないんじゃないか、そしていまの時代におけるビジネスの実態にそぐわないところまで出てきているのではないか、というのが大別すると4つぐらいに分けられると思います。

それでは、1つずつ見ていきましょう。

米国の企業でも、日本の企業でもそうかもしれませんが、現場のマネジャーや従業員の方に話を聞くと、「評価される」ということが好きではない、管理者自身もそもそも得意ではないというような拒否反応が、多くの方から聞こえてきたりします。

実際、ヒューマンバリューが実施した実態調査でも、「マネジャーの95%が、自分たちのパフォーマンス・マネジメントシステムに不満をもっている」という結果が出ました。 また、レイティングをすることによってモチベーションが上がると受け止めている人は一部であって、大半の人はむしろモチベーションを下げている、というような声が出てきています。

2つ目が、「マネジャーとメンバーの関係を悪化させる」ということです。

そもそも「評価する」ということ自体が、多くのメンバーに対して不安を増大させます。また「評価する」ということは、ある意味では、ある人とある人を比較するということにもつながりやすいわけです。比較されるということ自体が、やはり不安を増長させたり、上司と部下の関係性を悪化させたりすることにつながっているということが、自社の調査やニューロ・サイエンスからのエビデンスからわかってきました。
さらに、評価者にバイアスがあり、そもそも客観性・公平性のあるような評価ができているのかという課題も指摘され、こちらもニューロ・サイエンスによって「バイアスは完全に排除することはできない」ことが明らかになってきました。

3つ目が、「かけるコストと得られる成果・効果がつり合わない」ということです。

これは外資系の企業でよく見受けられることですが、パフォーマンス・マネジメントを実施するために、つまり評価を行うために膨大な資料を用意する、そしてその資料を持って社内の調整をして、また部下に対してしっかりと説明するという、かなり多くの時間と労力をかけているということです。
その割には、それを通じてメンバーが本当の意味で成果が上がったり、メンバーの成長に貢献する内発的な動機づけにつながるといった目指すものとの具体的な結びつきが遠いのではないか。要は、かけている時間と得られる成果のバランスの悪さ、そういうことについて指摘されています。

また日本の会社でも、詳細に評価を厳密に説明したり、きっちりやろうとすればするほど、どうしても仕組みの複雑性が高まるということがあります。やはり仕組みの複雑性が高まると、逆に形骸化する、こういう流れにつながりやすいという課題があるかと思います。

ビジネスの実態にそぐわないというのは環境変化との兼ね合いですが、今は動的な環境の時代であり、年に1回、2回評価や面談をしてパフォーマンス・マネジメントをするというのは、変化のスピード合わないという状況が生まれています。成果を生み出したり、本当の意味で人のモチベーションを高めるというのは、従来のパフォーマンス・マネジメントでは難しくなってきています。こうした状況においては、頻繁なコミュニケーションとかフィードバックが必要で、仕事の仕方も、個人の取り組みよりも、コラボレーションがより重視されるようになると、個人の成果の創出とその評価に焦点を当てた現状のパフォーマンス・マネジメントでは、対応できなくなってきているということがあります。

ニューロ・サイエンスの進化による新たな発見

ご存知の方も多いかもしれませんが、キャロル・ドウェック(スタンフォード大学教授)が書かれた『マインドセット』(草思社, 2016年)という本が――いま新しく翻訳し直されて、お読みいただいている方も多いかもしれませんけども――脳科学の進化によって、人間の基本的な考え方の枠組みには大きく2つあることがわかってきました。

1つはグロースマインドセットです。これは何かというと、前提として能力は高められる、自分は成長できるという考え方です。そういう人はより良くなれるし、失敗を恐れない。また自分でしっかりとチャレンジしていて、他人から評価されるというよりも自分の成長にフォーカスが当てられています。そういう人にとっては、フィードバックも自分を成長させるための非常に良い機会として受け止めます。そして、学ぶことが楽しく、成長が促進されます。

一方で、フィックスト・マインドセットというのは、前提として、知性や才能や能力は固定的だと受け止めています。そういう中では、人間はある意味変われない。そういう人は失敗を恐れるし、新しい挑戦を避けるし、そういう人はどうしても他人からの評価が気になる。そういう人にとってはフィードバックは、自分にある種の危険を及ぼすものだったり、怖いものとして受け止められます。そしてすぐに諦めてしまい、成長にブレーキがかかってしまいます。

現在行われているパフォーマンス・マネジメントのレイティング(評価段階付け)は、フィックスト・マインドセットを助長するところにつながっているということがニューロ・サイエンスからわかってきました。

以上が、今のビジネス環境における「従来のパフォーマンス・マネジメントの課題」であると考えます。

この記事は、2016年3月18日『パフォーマンス・マネジメント革新フォーラム』における(株)ヒューマンバリュー 代表取締役副社長 阿諏訪博一の講演部分から、従来のパフォーマンス・マネジメントの課題時代的な背景について整理した内容になります。

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